CXOストーリー

【CEO】GROOVE X 林 要

【CEO】GROOVE X 林 要

人々の潜在能力を回復させ、癒しを与える新世代の家庭用ロボットを開発するGROOVE X。2015年の設立以降、多額の資金調達にも成功している今注目のスタートアップ企業だ。同社のCEOであり、ソフトバンクの孫正義氏の誘いに応じて「Pepper」のプロジェクトにも携わった林要氏に、起業家としての心得やチームマネジメントの極意について聞いた。
※本記事は2017年に実施したインタビュー内容を基に作成しております。

非常識の中から1%の真実を見つけ出す

非常識の中から1%の真実を見つけ出す

卓越したアイデアは非常識の中から生まれる

 

――起業家にとって大事な3つの素養を挙げるとすれば何でしょうか?

 

色んな視点があると思うんですが、僕が思うのは「非常識な真実を発見できること」「ストーリーの力」「実行力」ですね。中でも、一番大事なのは「非常識な真実を発見できること」です。

 

 

 

林 要(はやし かなめ) GROOVE X 創業者兼 CEO。トヨタ自動車で空力技術者としてスーパーカー「LFA」やドイツでFormula-1(F1)の開発に従事。2011 年よりソフトバンク孫正義 CEO が立ち上げた「ソフトバンクアカデミア」参加。2012 年、同 CEO から誘いを受けて「Pepper」のプロジェクトメンバー着任。2015 年から現職。

 

――「非常識な真実」というと?

 

「非常識」とは「人のバイアスからリリースされていること」と言い換えることもできます。人間というのは、物事を見る時に自分の常識で判断しますよね。常識は物事を効率的に判断するのにはとても役立つんですが、それゆえに常識を通したからといって、物事を俯瞰してフラットに見れている訳じゃないんです。その証拠に、全員が真っ先に考えつくような常識的なアイデアに魅力が無いことは、皆さんご存知だと思います。

一方で、非常識なだけではダメで、バイアスからリリースされていながらも「真実」であることが重要です。真実に即していなければ、実行に移すことはできません。「非常識なファンタジー」はNGということです。非常識なファンタジーも常識的な真実もダメ。「非常識な真実、現実」をとらえにいかなくてはならないんです。

「非常識な真実」をとらえると、ビジネスにおいて卓越したアイデアになります。「卓越した」というのは、つまるところ「非常識な真実に基づいている」ということなんですね。

私がトヨタにいた頃にFormula 1(F1)というレースカーの開発に従事し始めた時も、いろいろとアイデアを考えてみてました。しかし世界中の優秀なトップエンジニアによって、すべて残らず試されていたんです。

その中でどうやって成果を出そうかと考えた時に、自分が真っ先に考えつくアイデアはことごとく没にすることにしました。で、逆に「皆の考えないところはどこなんだ?」と頭を捻る。

非常識なアイデアの99%は「ファンタジー」なのでダメなんですが、残り1%の「真実」を見つけることに注力すると、意外にそこはブルーオーシャンだったりするんです。

 

重要なのは人を動かす「ストーリー」

 

次に大事なのが「ストーリーの力」です。「非常識な真実」を見つけたとして、それを人に伝えられなければ、想いを表現するアーティストとして発見してもらう事を祈るしかない。でもビジネスにしたいんだったら、発見してもらうのは待てません。どうしても必要な時に必要な人の協力が必要になります。ビジネスにするための谷を越えることは、自分一人だけではなかなかできないんです。

しかし、言いっぱなしで人が理解してくれるのを待つ、というのはビジネスとしては非常に不確実です。人に理解してもらいたい時の打ち手としては、データで証明する等もあると思うんですが、人はデータだけでも動いてくれないものです。

では、どういう時に人は動いてくれるかというと、伝えたいことが「ストーリー」になっているときなんですね。ストーリーを聞いて初めて、人は動いてくれると私は思っています。

これは何故かというと、人間の認知の仕組みが「エピソード記憶」と呼ばれる、あらゆる情報をストーリーに関連づけて処理したり記憶したりする方法に基づいているからなんです。ですから相手に印象づけられるようなエピソードにそって説明できるかが認知の成否を左右するわけです。そんなストーリーを作れること、これが「ストーリーの力」です。

人を動かすストーリーに落とし込める力がつくと次に何が起きるかというと、リソースと体制が整うようになります。「ストーリーの力」によってお金も人もついてくる。リソースが集まればビジネスを推進していくための体制も作ることができます。

ですから、起業家に必要な素養は順番に「『非常識な真実』を発見できること」、次にそれを「説明できる『ストーリーの力』があること」、最後に「リソースを集め体制を整える『実行力』があること」という順番になると思います。

 

――なるほど。ちなみに、実行力があっても壁にぶつかって折れてしまう起業家も多いのではないかと思うのですが、壁を乗り越えるためにはどうしたらよいのでしょうか?

 

そこはストーリーの力によるんじゃないかと思います。

 

「やってやるぞ!」という熱意も大事なんですが、「壁にぶつかって折れてしまう起業家」というのは、熱意だけじゃどうにもならなかった、という事ですよね。それは協力してくれる人に分かってもらえないとダメなのだと思います。またその手前に、「非常識な真実」を発見できているかどうかも大事です。自分がやろうとしていることが本質的に大事なことなのか、またそれを上手く相手に伝えることができているかを常に自問自答することが大切だと思います。

 

 

大企業エンジニア時代に養われた起業家としての素養

大企業エンジニア時代に養われた起業家としての素養

原点は小学生の頃に読んだ『開発物語』

 

――林さんはどのようにして先ほど挙げていただいた起業家に必要な素養を身につけられたんでしょうか?

 

まず、私のものづくりの原点は小学校時代に遡ります。当時、学校の図書館にあった様々な開発プロジェクトのノンフィクションのシリーズを没頭して読んでいました。その中では大西洋を横断したリンドバーグや月まで有人飛行したアポロ8号など、様々な命がけの開発プロジェクトの話が語られていたんですね。学校の図書館にある開発プロジェクト系のノンフィクションは全部読破したほど、先人の物語は当時の僕を非常に熱くしてくれました。そして自然と「こういうのをやりたい!」と思うようになったんです。

ところが会社(トヨタ)に入ってみると、ちょうどタイミング的にバブルが崩壊した影響で世の中は効率化一辺倒になっていました。何が起こっていたかというと、ものづくりの会社に入ったはずなのに「試作レス」という、コストを下げるためにいかに試作を作らないかというトライアルがなされていました。小学生の自分が夢見たような「夜中まで試作品を作って、ダメ出しされて翌朝までに直して『お前よくやった!』と褒めてもらう」なんて話はどこにもない。そもそも深夜残業禁止ですし(笑)。

そんなモヤモヤを抱えているうちに、LFAというスーパーカーやFormula-1(F1)の開発に関わるチャンスに恵まれました。そこは一般的な車の開発現場とは異なり「放任主義」でした。みんなそれぞれ、勝手にチャレンジし、結果を出すことが求められる世界です。

そのような世界で結果を出すためにはどうすればいいか?先ほども少しお話ししましたが、世界中の何千というトップエンジニア達がたった1台の車に叡智をつぎ込んでいるので、通常思いつくようなことはすべて既に試されている。

そこでまずは「自分が考えつくことをやらない」ことから始めました。先ほどから申しているような「非常識な真実」を見つけ出す努力をしたわけです。そうすると、面白いことに例えばF1でもレースカーの開発を全くやったことのない私が定期的に結果を出せるようになりました。

もちろん、出すアイデアは「非常識」なので最初は同僚からバッシングを受けます。皆、直感的に許せないんですよね。でも性能が上がると評価が面白いほど変わってくるんです。そんな「非常識な真実を発見すること」の成功体験をLFAやF1開発を通して積むことができました。

 

トヨタ時代に痛感した、人を動かすことの難しさ

 

ただし、自分1人で出せる成果には限界があります。F1で言うと、いちエンジニアの守備範囲である部品だけではレースに優勝することはできない。そこで「人を率いないとダメだ」と感じ、F1から本社に戻る際に、「Z」という量産車の製品企画というプロジェクト・マネジメントのポストに異動しました。

「Z」に行って身に染みたことが、「いかに人を率いることが難しいか」です。

各エンジニアは他にも何車種もの案件を抱えていて、仕事がオーバーフローしている。そんな中で、1車種の正論だけを押し付けても誰もその1車種に特別に魂を込めるようには動いてくれないわけです。

そんな状況の中、必要にかられて身に着けたのが「ストーリーの力」です。自分のプロジェクトの会社における立ち位置、存在意義から始まり、個々の仕事がどのように貢献していて、どれほど重要なのかを語る。そういったことを始めて、ようやく私のような若輩者のお願いに対しても、自ら「やるぞ!」と燃えてくれるエンジニアが出てくるようになりました。

「ストーリーの力」は、このように大企業のプロジェクトマネジメントを通して身につけたように思います。

 

――その後、ソフトバンクCEOの孫氏に腕を買われて、「Pepper」のプロジェクトメンバーに着任されたと。

 

ええ。トヨタには14年間勤めていたので、正直、そこから出るのは不合理なほど怖かったですね。

 

――どうしてそのような決断が出来たのでしょう?

 

それは孫さんのお陰です。あと、もうひとつは好奇心ですね。

日本の企業って、十数年勤めるとだいたい自分の会社での自分の未来像が見えてくるじゃないですか。「社長にはなれないだろうけど、運よく役員まで行けたらこんな仕事、部長になれたらこんな仕事、課長ならこんな感じの役割だよね」とか。どの立場・役職であっても十分に素晴らしいことなのですが、なにをやっていて、どこに悩むのか、なんとなく想像できた気になってしまう。それは幻想なのかも知れないけど、見えた気になるわけです。

「違う人生を歩んでいたらどうなるんだろう」と誰しもが一度は考えることがあると思うんですが、私の場合、考えるだけでなく、それを本当に体験してみたかった。そういった好奇心が人よりも強く、転職の恐れに打ち勝ったんだと思います。

「非常識な真実を発見すること」の成功体験を積むと、常識的な範囲で戦う辛さが分かってきます。非常識な中に真実があるんじゃないかと考えてしまう。ですから、「トヨタの人が普通は辞めないんだったら、辞めるところに成功パターンが存在するんじゃないか」と、キャリアにおいても非常識な方向に逆張りするような好奇心を持つようになったのかも知れません。

 

 

人の魂の受け皿になるようなロボットを作りたい

人の魂の受け皿になるようなロボットを作りたい

コスト削減を突き詰めた、その先の世界

 

――ここまでは大企業にお勤めの頃の話をメインにお聞きしてきましたが、林さんはトヨタを離れて家庭用ロボットを開発する道を歩まれることになります。GROOVE Xのロボットについてお聞かせください。どういった思想のもとで、どのようなものを作るチャレンジをされているのでしょう?

 

私どもが開発しているのは、「人間のパフォーマンスを上げるためのロボット」です。

パフォーマンスを上げるといっても、人の手間を省くということではありません。一般的にロボットというと、多種多様なコストを削減するために開発されていると思います。ここで問題になるのが「コストを削減しきった後に人はどこにいくのか」ということです。コストを極限まで削減したら、人間はおそらく自分の存在意義に悩むことになるんじゃないかと思うんです。

人は集団の中でそれぞれ役割を持ちながら「誰かの役に立っている」と実感することが幸せに繋がります。ですから、ロボットが人間の代わりに色んなことをこなすようになって一人ひとりが働かなくてもよくなった時に、いわばベーシック・インカムのようなことが現実となった時代に、人にとって何が辛いかというと「自分が役に立っているかどうかよく分からない」「それを認めてもらっているのか分からない」ということでは無いかと思うんです。それは遠い未来のことなんかじゃない。それは今すでに兆候があり、世の中で起き始めている事ではないでしょうか。

 

――世の中には、「ロボットが職を奪う」というストーリーがあふれていますよね。一方で「人間のパフォーマンスを上げること」はあまり聞き慣れないコンセプトです。

 

人間って、日々食うや食わずの時には、食べるために必死だから精一杯頑張れるんだと思います。生存本能により、生命力がみなぎる。でも今みたいに、食べるために頑張らなくてよくなっちゃった時代に起こってくるのが「自分の役割って何だっけ?」という疑問です。

じゃあそんな時代に何が一番大事なのか。それこそ「自分自身がどう役に立って、今日は自分がどのくらいよくなって、明日はさらにどのくらいよくなるのか」という期待ですよね。期待といっても、「いずれ景気がよくなるかもしれない!」というような外部要因に期待していても幸せにはなれない。

結局は、一人一人が「明日、自分はもっとよりよくするんだ」という決意を持って、自らコントロールできる部分に期待していかないと幸せになれない、こう仮定すると「明日の自分が、今日の自分より成長すること」の方が幸せを感じるために大事だと思いますし、興味が湧きますよね。そういう事がこれから必要とされていくんじゃなかろうかと思った訳です。

私どもが考えているのは、世界中のエンジニアが取り組んでいる「コスト削減型」ロボットではなく、その先の世界で「人間の魂の受け皿」になるような存在なんです。

 

――なるほど。世の中の人が想像しているようなロボット開発とはまるで違いますね。

 

そうですね。GROOVE Xが目指しているロボットはある意味「非常識」ですから。

 

おにぎりが生む、スタッフ同士の心の繋がり

 

――そんな全く新しいロボットの開発に携わっている社員の方は、どのような方が多いのでしょうか?

 

弊社にはフリーで活躍できるレベルのスキルを持ったスタッフが多いと思っています。

そういう人達って自分の得意分野では周囲に並ぶ人のいないエキスパートだったりするので、前職では頼られていても、知的好奇心が満たされていなかった人が多いんですよ。ずっと皆から頼られる役割、みたいな。で、知的好奇心を求めて来てくれてはいるのですが、「前職と同じような感じなのかも」と最初は弊社にも期待しきれない面があるわけです。そんな時に何気なく「新しくこういうのを使ってみようと思ってます」とSlack(コミュニケーションツール)に投げると「それはこんな課題がありますよ」と他領域の人から予想もしなかった球が返ってくる。

結果として「色んな人がいて面白いですね、いい会社ですね」と言ってもらえる。それが一番嬉しいです。そういう多彩な人達が自律的に役割分担できる組織であれば、それ自体が参入障壁になると思うんです。

 

――多彩なメンバーの方向づけやモチベーション維持はベンチャー共通の課題だと思います。どのように工夫されているのでしょうか?

 

海外では「エンプロイーエクスペリエンス(従業員の経験価値)」と呼ばれて注目されていますが、弊社でも社員の従業員体験は非常に重視しています。実際、社内に「社内文化育成大臣」のような役割の社員が何人も自然発生して、さまざまな取り組みをしています。

例えば、チーム間の取組みを共有する際には、毎週一回、各部門の活動を発表する“バザール”というものを開催しています。“バザール”を開催することで、無関係の人も他部門の成果を見る機会が増えます。なんとなくでも全体像や自分の領域と関係する部分を感じてもらえることです。抜け漏れている横串の情報がつながりやすくなることで、進歩の実感を共有できます。

また、朝礼についても工夫してオリジナルのものを作り上げています。朝礼をやる目的は大きく2つあって「みんなが一つの方向に向かっている」ことを示すことと、「それぞれの人がお互いを知ること」だと考えています。このうち、特に後者を意識的にフォーカスして実施しています。

具体的には、1日1分、「何でもいいから好きなことを喋る」と毎朝、担当を変えて話してもらうようにしています。ただし、それだけだと皆準備しすぎてしまうので、朝礼の担当の人が、誰か別の人をその朝にいきなり当てるというスタイルにしています。

「ストーリーの力」のお話をしたように、プレゼン能力やコミュニケーション能力は大事なんですが、プレゼンの度にきちんと準備できるとは限らないですよね。「突発的なコミュニケーションにどう応えられるか」をエンジニアが鍛えるというのは、注目されにくい要素だけれども重要だと考えています。

また、少し特徴的な所でいくと、弊社は夜7時になると炊き出しをして「おにぎり」を振る舞うようにしています。大企業では昔よくあった「たばこ部屋」のイメージで、普段喋らない人同士でも話せるような空間と時間を「おにぎり部屋」として用意しているイメージです。たばこと違っておにぎりは食べられない人がいないですよね(笑)。他にも、皆が気兼ねなく好きなことを話すTech Lunch(テックランチ)を開催したり、金曜の夜の一定時間、冷蔵庫のお酒を飲み放題にしたり、朝食にフルーツを提供したり……。

とにかく、職人みたいになって個々が分断されるのではなくて、対話する、共感する事が重要だと考えて、皆の対話が促されるような取り組みを積極的に行なっています。

 

 

イノベーションを生み出すための組織論

イノベーションを生み出すための組織論

「Pepper」を生み出した多彩な人材のマネジメント法

 

――林さんが関わった「Pepper」は成功事例としてロボットの新常識を切り開いたように思います。Pepperを生み出すことができた要因はどこにあるとお考えでしょうか?

 

「Pepper」の時に良かったと思ったことは、多種多様な人達をチームに入れたということです。多彩な人達を入れるのは普通はマネジメントしづらいので、嫌われますよね。でも様々なトライをするうちに結果的に多彩なメンバーが集まったんです。おかげで、メンバーの中から予想だにしないような議論やアウトプットが出てくるようになりました。

 

――仲間集めに基準は設けなかったんでしょうか?

 

「多彩な人達」といったって、誰でもかれでも適当に集めればいい訳じゃありません。トライ&エラーしている間に、「コンセプトに共感している」「各分野での一家言である」「コミュニケーションが出来る」の3つの要素が揃っているメンバーが残りました。

メンバーの中に、この3つの要素のうち1つでも欠落している人がいると、多彩な人達を集めたとしても、単なる主義主張のぶつかり合いに終始してしまいます。しかしながら3つとも揃っている人同士であれば、最後は何らかの結論が出るんです。お互い、相手の言っていることに刺激を受けて、さらにブラッシュアップされた意見を出してくれる。いわば自分の脳の中も外も使って考えを発展していく、というイメージです。

この多彩な人達のアイデアが集まって「Pepper」に繋がったように思います。

 

メンバーのパワーを引き出す「1.5か月PDCAサイクル」

 

もう一つ、意識的にやっていたのは「1.5か月PDCAサイクル」ですね。

「とにかく長期の計画を細かく立てすぎない。逆に、比較的短い期限でスケジュールを切る。」ここで重要だったのは1.5か月というスパンと、管理し過ぎないということでした。

まず1.5か月というスパンであれば、メンバーが全力を出し切れる。長過ぎずちょうど良い。そして、実行の中身を管理し過ぎないことで、たとえ方針転換が起きたとしても柔軟に対応できる組織になった気がします。

例えば、「1.5ヶ月先に孫さんへのプレゼンをやるから、大体このぐらいやっておかないと満足して貰えないよね」という話をすると、皆それぞれ色んなことを自ら考えてやり出す。そして方針転換があったとしても、ざっくりとしか計画が無いから、あまり動じない。

こういう方法ってパワーが出るんだなぁとPepperを開発する中で経験則で思っていたのですが、起業する時に勉強した際に、実はこの方法が「アジャイル開発手法」というよく知られたやり方であることを知りました。そして、その中に「スクラム」という、組織のあり方にまで言及し体系化している手法があることを知りました(スクラムとは、リーダーが期限や予算・権限を区切ってメンバーにトップダウンで指示を出す「ピラミッド型」組織に対して、フラットな自律型組織でプロジェクトごとに機動的に役割を持ち連携する組織マネジメントスタイル)。今、弊社ではそのスクラムをつかって会社を運営しています。

 

日本生まれの「スクラム」型マネジメント

 

――実際にその「スクラム」型マネジメントを実践するうえでに、上手くいく秘訣はどこにあるのでしょうか?

 

重要なのは、メンバーがスクラムの有効性を「信じること」ですね。

スクラム自体は方法論ではなくて、「人は何をしたら動くか」という経験則が体系化されたものです。しかし一般的な「ピラミッド型の組織」のマネジメントに慣れている人は、その有効性をなかなか信じることができない。

GROOVE Xではまずソフトウェアエンジニアから成功事例を出すことで、ハードウェアエンジニア、ビジネスサイドへと「信じる」人を増やしていっています。

 

――それはまさに冒頭におっしゃっていた「非常識な真実」が組織マネジメントにおいても当てはまっているということですね。

 

そうかも知れませんね。数か月前まで「スクラムなんて無理だ」と言っていた人が、今や立派にスクラムの心と可能性を語れるまでに成長しているケースもあります(笑)。

 

――どのくらいの頻度で成果コントロールをしているのでしょうか?

 

1週間ごとに成果をシェアすることにしています。といっても、あくまで「成果の出た人が見せていく」というスタイルです。重要なのは1週間ごとに何かを達成することそのものではなく、自分の決めた期限に対して自分で頑張れること、そしてそれを着手前と着手後で他の人とシェアできることだと考えています。

たとえば、営業主体の会社であれば、営業が頑張って目に見える売上さえ上がっていれば、どこの部署の人達も幸せになれますよね。でも、GROOVE Xのように製品をリリースするまでずっと潜り続けているような企業は、すぐには未来が見えないので、社員が「大丈夫かな」と不安に駆られてしまいやすいわけです。

それを防ぐために、スクラムのメリットをフルに活かして誰かがやった仕事を全員にシェアするんです。全く別の部門の人のやることって、まるで魔法に見えるんですよね。ハードウェアのプロの仕事はソフトウェアのプロにとっては魔法だし、逆もまた然り。隣にいる魔法使い達の操る魔法を見て、メンバーがお互い、不安を癒していくんですよ。

 

――この「スクラム」マネジメントの手法は他企業で取り入れても上手くいくとお考えですか?

 

スクラムを取り入れたから良いということは無く、それぞれの企業に合わせた最適な組織構造から考えていくことが重要だと思います。

例えば、営業系や生産系の会社では「ピラミッド型」の組織が非常に効率的にワークします。社長も各部門のトップに「予算と期限はこれで、この結果を出せ」と適切な目標を与えていれば良い。

一方で、GROOVE Xの開発部門のように、よく方針が変わるようなケースでは「スクラム」などのアジャイル開発手法の方が機能する場合が多いかと思います。

これは何故かというと、たとえば「ピラミッド型」組織では、セクショナリズムと呼ばれるような、自セクションを守るような動きが生まれます。そして、結果的に方針が変わる度に自らの領域を”狭める”方向に組織は動きます。

その対策として必要となるのが組織と組織の境界と守備範囲をきちんと定義する「ルール」です。「この仕事はそちらの組織の管轄です」といったものですね。これによって、組織と組織の間を埋めることができていれば、「ピラミッド型」組織でも何の問題もありません。

ただし、一つだけ落とし穴があって、先ほど申した通り、よく方針が変わるような企業では、「ルール」が決まっていない範囲が頻繁に出現します。そして、しばしばそれは見過ごされてしまう。気付いたころにはお互いその部署間の隙間は拾わないと心に決めてしまっていて、誰も前向きにフォローできなくなり、組織間の亀裂が生じるといった事態が起こるわけです。

その点、スクラムのように責任分解点を流動的にし、仕事の期限にも幅を持たせるような組織運営であれば、タスクに安心して取り組めるので、変化への対応力が高く、組織間の亀裂が出来にくくなります。

でもトップダウンで引っ張れず、自律的な行動に任せるスクラムで成果を本当に出せるのか、というと、そこはメンバーの自律性をあの手この手で上げ続けるしかない。経営層も誰か特定のマネージャに指示を出したり、叱ったりしていれば済むということはないため、結果的に経営者にとっては非常にタフな組織マネジメントスタイルとなります。

事業方針がよく変わるような会社で、かつ経営者がタフなマネジメントを求められることを覚悟できるのであれば、スクラムのようなマネジメント手法も選択肢にあるのではないでしょうか。

 

――お話を聞いていると、トヨタ、ソフトバンクと全く畑が違う組織を経験された林さんだからこそいきついた答えのように思います。

 

そうですね。トヨタとソフトバンク、あんなに社風が違っているのに、組織として起きる問題は似ているんですね。そうなってくるとこれは決して誰かが悪い、ということではなくて、人間の集団行動における組織構造に起因するシステム上の問題だと思ったんです。

一方で、スクラムを始めとしたアジャイル開発で上手くいっている組織がアメリカにはある。そして実はこれらの組織論は元々日本から生まれたものなんです。 日本の高度成長期に上手くいっている会社の解析をしたものを野中郁次郎氏(日本の経営学者)がまとめ、ハーバードビジネスレビューに投稿したことがきっかけになって生まれました。

アメリカでは体系化されて実践されていったのに、日本は自らの成功例を体系化する事はできず、結局今になって逆輸入のような形で展開されはじめているわけです。日本の企業もいまいちど、組織論について真剣に考えるべきだと思います。

 

 

人材も出資者も惹きつける「ストーリーの力」

人材も出資者も惹きつける「ストーリーの力」

「共感をどう醸成するか」が人材採用の鍵

 

――多彩な人達が集まっているとのことでしたが、採用について何か工夫やこだわりはあるのでしょうか?

 

採用については知り合い経由での紹介が多いですね。

一方で、社員をもっと増やしたいという気持ちは凄くあるんです。しかし「人を増やすこと」と「文化に共感できる人であること」のどちらを優先するかと言われれば、弊社は後者を選択しています。あくまでいい人がいたら採るというスタンスです。

おかけさまで、入ってくれているスタッフ達とのマッチング率は高いと思います。エンジニアの離職率は年間2%程度です。

 

――採用の取組みの中で「これは上手くいった!」というものはありますか?

 

採用の要になるのは「共感をどう醸成するか」だと考えています。

GROOVE Xでは先ほどもお話ししたようにTech Lunchという社内イベントを開催しています。そこでは、参加者があまりTechに関係の無いことでも各々しゃべりたいことを喋る(笑)。ただ、凝り性な人が多いので、みんな話すことが深いんですよね。玩具会社勤務だった人から皆が知ってる「◯◯シリーズを作ってました!」みたいな裏話がぽんと出てくるとか、人工知能からアートまで、それぞれの領域の深堀りされたエピソードが面白いんですよ。

そのイベントを社外にも解放したことがあります。すると社外の方が弊社の世界観にシンパシーを感じて興味を持ってくださり、今は一緒に働いていたりします。

 

――互いに仕事だけの関係ではなくて人として理解し尊敬し合うことを重視されているような印象を受けます。

 

そうですね。プロフェッショナルで、更に文化面で肌が合うということを採用では重視していますね。

 

約束を守り続けることで紡ぐ信頼感

 

――貴社は各有力者からの資金調達などにも成功されているようにお見受けします。社外の人を魅了する秘訣をお教えください。

 

我々は資金調達が決して上手い訳ではないので、かなり地道にやっているというのが正直な所です。プレゼンだけで数十億円集めちゃう、みたいな猛者が世の中にはいますからね(笑)。

資金調達の際に大切にしていることは極力「できないことを言わない」努力することですね。

具体的に何をやっているかというと、まずロードマップを書いて、それに合わせて作ったモノを見せています。多くのハードウェアスタートアップはお金欲しさに話を膨らませちゃう傾向があります。ベンチャーキャピタルの皆さんはそういう大風呂敷に慣れっこですから、割り引いて考えるのが当たり前になっているんですよ。だから私どもが話したロードマップの予定通りにモノを出すと、凄く驚かれます。

 

――それが信頼に繋がっていくんですね。

 

そうですね。我々としては例えば1か月の遅延でも大ごとだと思っているのに、「1〜2年遅れるとかザラですから」とびっくりされるんです(笑)。

弊社が事業としてやっていることに対してレバレッジをきかせて資金調達できているかというと、実はそんな事は無いと思います。うまくやっていたら、集めれるお金は更に一桁違うかも知れませんが、私どもは現状の計画で事業を計画に載せられると考えているので、それ以上は高望みしていません。

 

自分たちの「ストーリー」を進化させ続ける

 

――海外投資家からの資金調達にも成功されているとのことですが、海外投資家から資金を募る際の留意点等ありますか?

 

海外から資金調達する場合もポイントは変わりません。

ただ、「ビジネスが世界に向けて広がっている感」をアピールすることは当然ですが大事だと思います。正直、海外の投資家は目が肥えています。レベルの高いものを多く見ている。そういう意味では日本国内・海外問わず、資金調達の最中に自分のストーリーをブラッシュアップしていくことが不可欠です。

特にシード期のエンジェル探しはどこから手を付けたらいいのかも分からないじゃないですか。とりあえずFacebookの友達に「投資してくれる人、誰かいる?」と声をかけるところから始まったりしますよね(笑)。

そうすると「話を聞いてやってもいいよ」という人達がちょこちょこ出てくる。そういう人達の疑問を丹念にすくい取り、ファンになっていただく必要があると思います。

投資家の期待や要望になんでも応えろというのではなく、投資家の疑問に対して真摯に考え、やっつけの回答はしないことです。なぜなら、必ず彼らと同じ疑問を感じる人が今後も出てくるからです。それは10人に1人かもしれないし、30人に1人かもしれない。でも、必ず存在する。そういう人に向き合えるよう、質問を貰う度に自分のストーリーを磨き上げていくと、ソリッドな事業計画書が出来上がってきます。

 

シード期に資金調達をし始めた時のプレゼンと、最終的に資金調達を終えた時のプレゼンでは、ボリュームが十倍違っていても不思議はありません。

 

 

 

日本の産業はまた必ず伸びる。その一助になりたい

日本の産業はまた必ず伸びる。その一助になりたい

日本を代表する「自動車の次」の産業を創っていきたい

 

――林さんの信念についてお聞かせください。人生において大切にしていること、そしてGROOVE Xでなしとげたいことはなんですか?

 

小学生の頃に読んだ開発プロジェクトのノンフィクションに描かれていたような、「元気のよかった高度経済成長期の日本」「焼け野原からのし上がった日本」のイメージをいつか自分でも体現したいと思ってチャレンジしています。

高度成長期に今の日本の代表産業である自動車産業が確立されたと思うんですけど、同じように私達は「日本を代表する次世代の産業」を創っていきたいなと考えています。GDPの数字を見ていても、日本って、今がどん底なんじゃないかと思うんですよね。バネでいうと縮みきった状態。あとはどこかで伸びるだけなんだけど、それが今年なのか10年後なのかは分からない。ただ、伸びない理由は一切ない。

 

日本は過去、相当イノベーティブな国であったものの、今はそのイノベーティブさが影を潜めている。なので、揺り戻しは必ず来ます。その揺り戻しの一助になれたらいいなと思っています。

 

ハードウェアベンチャーが生まれるために必要なこと

 

――日本ではハードウェアベンチャーをあまり聞きません。なぜそのような状況にあるとお考えですか?

 

理由は単純で、「エンジニアの人材流動性が低い」ことだと思っています。

優秀なハードウェアエンジニアは他国に比べても人数はたくさんいます。しかし、エンジニアの特性上、技術にはアグレッシブでもプライベートには保守的な傾向にあります。特に日本においては、力のあるエンジニアがベンチャー市場に放たれていないという現状があります。

私もトヨタで14年勤めたのでわかるのですが、エンジニアとして会社で10年以上過ごすと、自分が外の世界で果たして通用するのか分からなくて外に出られなくなるんですよね。でも、何かのきっかけで大企業で5~10年バリバリ働いた方が外に出たら、凄く世界が広がるはずです。世界に羽ばたくスタートアップだって、いくらでもできる。

例えば、クラウドファンディング(インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集める仕組み)のハードウェアのプロジェクトで失敗が多く起こっているのは、優秀なハードウェアエンジニアが市場に出てこないため、スタートアップに人材が不足している結果だとも言えます。アイディアはよくても、支える人がいない。

ハードウエアで起業する場合って、ビジネスマンとものづくりのプロであるエンジニアが組むケースが多いですよね。ホンダもソニーもそうでした。でも、経営者を支える優れたエンジニアが欠けてしまうと、クラウドファンディング等において抜群のストーリーで人を魅了してお金を集めることができても、モノづくりの見通しが甘すぎて実践の時にコケてしまうんです。ビジネス系の経営者は夢を語りすぎるので、できないことを言いがちですから。

ただ、最近は大企業からもエンジニアが流れてくるようになってきているので、凄くいい傾向だなと思っています。実際に大企業から飛び出したエンジニアがベンチャーでイキイキと働いている。これからもっと面白いことが起きてくるんじゃないかなと期待しています。

 

起業家は”役割”と考えられれば、決して挫けない

 

――では、ベンチャーナビの読者である起業家、起業家予備軍の方々へのメッセージをお願いします。

 

まず、僕は「起業ありき」という考え方はどちらかというと反対です。

起業家としての素養に「非常識な真実を発見できること」を挙げましたが、それを見つけられるかどうかというのは役回りだと思うんですよね。たまたまその時、その人に回ってきた「役割」にすぎないんですよ。

だから、起業家は「スター」を目指していてはいけないんじゃないかと思っています。世間から脚光を浴びる“かっこいいスター”を目指して起業するのって、もう古いんじゃないかな。今は起業家同士の戦いが熾烈すぎて、そういうモチベーションで起業していると勝てないんじゃないでしょうか。

それよりも、「起業家=役割」だと認識して、その役回りを大事に育てるというのが正しいのではないかと思います。起業家が役割だとすれば、やらなきゃいけないことをやってるだけなので、上手くいかなくても別に挫ける必要はありません。

起業家を役割ととらえるなら、他の支えるメンバーがとても大事であることもわかってきます。あなたが起業家だろうと、2番目以降の「支える人達」であろうとたまたま「役割」が違うだけなのです。

 

起業か、大きな夢を追いかける20番目の社員か

 

「起業ありき」ではなく、手がけるビジネスが世の中の新陳代謝に貢献できるのか、たとえば私どものように「日本の産業の新陳代謝に貢献することなのか?」という部分を判断基準にしていけばいいと思います。本当に貢献する事業なのであれば、必ず存在理由がありますから。

例えば、自分が小金を稼げるようなスモールビジネスの起業家になるのか、それとも「日本の産業の新陳代謝に貢献できる」ような大きな事業の20番目の社員として支えていくのか、どちらがいいかといったら、私は間違いなく後者を推します。私が組織人だったのでそういうマインドを持ってるだけなのかもしれませんが、日本にとってメリットがあるのは後者ですし、ひいては世界にまでその影響を広げる事ができます。結局、一人で出来る事って、限界があると思っています。

「注目を浴びるスターになる」「お金持ちになる」を目的に起業してしまうと、壁にぶち当たった時に折れやすい。そしてスターになるために、事業とは関係の無い部分で見栄を張る必要が出てくる。一方で自分を「役割」だと思って起業している人は、間違ったとしても「自分は役割じゃなかった。他の人を呼ぼう」と方針転換して、名参謀にピボットできますよね。

自分の「役割」だと思ってストイックに自分なりの起業家像を追求していくと、信頼してもらえて、ある程度ベテランの方ですら、意外についてきてくれます。この記事を読んで、少しでも勇気をもってやっていただけると嬉しいですね。

 

 

中山航介

筆者 : 

中山航介

上智大学を卒業後、2016年に新卒でDIに入社。
TMTセクター(通信・メディア・ゲームコンテンツ等)の市場分析を基にした国内外スタートアップへの投資デューデリジェンスや投資先の人事施策/資本政策などのインキュベーション活動に携わる。

中山航介

筆者 : 

中山航介

上智大学を卒業後、2016年に新卒でDIに入社。
TMTセクター(通信・メディア・ゲームコンテンツ等)の市場分析を基にした国内外スタートアップへの投資デューデリジェンスや投資先の人事施策/資本政策などのインキュベーション活動に携わる。